日本企業の“三大疾病”とデジタル・AIの使い所の間違い
経済産業省は「デジタルガバナンス・コード2.0」のなかで、DXを次のように定義している。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
クールスプリングス株式会社 代表の三枝幸夫氏は、このDXの定義について「データとデジタル技術を活用して」という部分を除けば、企業活動そのものだと指摘する。
特に日本企業は、エンタープライズ企業を中心に、業務で使用するITインフラの最新化や業務のデジタル化は進んできた。海外のテクノロジー企業やコンサル企業に多額のフィーが支払われたことも一因として、2023年には日本の“デジタル赤字”が5.5兆円に上るほどである。しかし、DXの現場でその投資を超えるリターンを得ることができているかといえばそうではない。
「多くの日本企業が『過剰分析』『過剰計画』『過剰コンプライアンス』の“三大疾病”にかかっているため、本社からの指示をこなすのに精一杯でミドルクラスや現場が疲弊していると、野中郁次郎先生も指摘されています。この三大疾病によって、投資した資金を回収できていない現状が引き起こされているのです」
と、三枝氏は指摘する。
一方、米国企業に目を向けると、「DXの成果が出ている」と捉える企業が日本よりも圧倒的に多い。三枝氏は日米の差について、デジタルテクノロジーの使い方の違いに理由があると話す。日本企業がデジタルテクノロジーを「コスト削減」や「働き方改革」など “守り”の目的で使っているのに対し、米国では新しい顧客の獲得や市場の創造、顧客価値の向上といった“攻め”の目的で使っているのだ。
AI導入に関しても同じ傾向が出ている。日本企業は従来の業務をより高精度に、効率的にやるためにAIを使い、米国企業は新しいサービスの創出や、新製品開発、顧客価値の向上のために使っている。日本企業の生産性や仕事の効率は元々悪くないにもかかわらず、そこばかりを研ぎ澄ましているのだ。
「バリューチェーンのスマイルカーブ化」が顕著になっている現在、日本企業が得意としていた製品開発、生産、販売という、バリューチェーンの中流の工程は汎用化が進んでおり、そこを研ぎ澄ましても価値を生み出しづらくなっている。一方で、先端素材や高度な技術の開発、ブランド価値の向上といったバリューチェーンの上流と、出口となるサービスでの付加価値向上といった下流を研ぎ澄ますほうが大きな価値を生み出すことができる。スマイルカーブとなっているバリューチェーンの構造上、日本企業がデジタルテクノロジーやAIを使おうとしている部分では大きな価値を生み出せない。