なぜ日本ではFP&Aが浸透しないのか。存在する2つの壁
基調講演に登壇した三木氏は、1989年にリクルートに新卒で入社。その後、現在まで30年以上、同社でFP&A(Financial Planning & Analysis)に関わっている。「人事異動の多いリクルートの中では異例のキャリアで、経理財務経験がないベテランFP&Aは、他社でもあまりないキャリアだ」と三木氏は語る。
三木氏は本講演の主題であるFP&Aを「分析・予測・計画策定・業績報告などを通じて、経営や事業の意思決定プロセスに貢献する機能/職種」だと定義する。これは「財務会計的」ではなく、「管理会計的な業務」に関わる職種だと表現できる。
「FP&Aの仕事のベースは、まさにマネジメントコントロールシステムの設計者、運営者の役割そのもの」
下図のように、グローバル企業においては、財務会計を統括する「経理財務」部門と管理会計を統括する「経営管理」部門が、「CFO」直下の組織として配置されているケースが多い。また各事業部の中には「事業CFO」が配置され、当該事業CFOは「事業長」と「経営管理」をそのレポートラインとするのが特徴だ。事業部の中の「営業」「生産」「開発」といった職能別にFP&Aが配置されることで、必然的に組織全体の人材育成を行うことになる。そのため、FP&Aを担う人材がプロフェッショナルとしてのキャリアを描きやすい構造となっている。
他方で日本企業では、CEO直下に「経理財務」と「経営企画」が並列に配置されていることが多く、ここには「2つの壁」があると三木氏は指摘する。
1つ目の壁が、「経理財務」と「経営企画」の壁だ。FP&Aは本来、両者を統合的に扱わなければならない。しかし日本企業ではそれぞれを管掌する役員が分離しているために、分析・予測・計画策定・業績報告を一貫して管理できなくなっているのだ。
1つ目の壁があることもあって、FP&A業務は各事業部内の「事業企画」などで実施されていることが多い。しかしレポートラインが「事業長」だけであるため、事業にとって都合の悪い情報は本社に報告されないなどの問題が生じる。これが本社と事業部の間にある2つ目の壁だ。
これら2つの壁の存在によって日本企業では、FP&Aが組織全体として十分に機能せず、業務が単発的・属人的に行われ、人材育成も各部署任せになり、結果的にFP&Aのプロフェッショナルとしてのキャリアも描きにくくなってしまっていると三木氏は指摘する。